秘密の地図を描こう
06
パソコンのモニターを見て、ラクスは小さな笑みを浮かべる。
「やっと、ですのね」
ずいぶんと待ちましたわ、と彼女は続けた。
「でも、とりあえずはご無事なのですね」
よかった、と笑みを深める。
「お元気そうで何より」
しかし、と思う。それならば、何故、彼は自分達の前に姿を見せてくれないのか。
「答えはわかっていますが」
今の彼が自分達――正確にはあの二人――の前に姿を見せれば、誰もが連れ戻したいと思うだろう。
しかし、だ。
そうすることで、オーブ国内に混乱をもたらすのではないか。キラはそう考えているに決まっている。
「こちらでのこともよくご存じなのですね、キラ」
もっとも、彼の手にパソコンがあるのであればそれは当然なのかもしれない。そして、彼がそうできる環境をギルバートが与えたのだろう。
「あの方が約束を守ってくださっているのでしたら、当然でしょうが」
しかし、と続ける。
「やはり、もう少し早く、連絡をしてほしかったですわ」
そうすれば、こんなにも心配しなくて済んだのに。ため息とともにそう言ってしまう。だが、彼にしても必要に迫られての判断だったのだ。
だから、と微笑む。
「とりあえず、カガリとアスランに活を入れましょうか。
その前に返事を書かなければいけないだろう。
自分にできることは他にないだろうか、ラクスはそう考えながらもキーボードを弾き寄せた。
レイとキラがいなくなって、この屋敷は静かになった。
「まぁ、仕方がないが」
自分があのような立場に付いてしまった以上、ここにもいろいろな者達が出入りをする。
今、目の前にいる彼のように一カ所にとどまっていてくれるならばともかく、自由に動かれては誰の目に止まるかわからない。
「預かっている以上、その身柄の安全を確保するのも当然だろうし」
しかし、と彼はため息をつく。
「君が目覚めてくれれば、少しは押しつけられるのに、ね」
いつかは目覚めてくれるのとはわかっている。しかし、一日でも早く、と願ってしまうのは、最近の情勢のせいだろうか。
「それでも、あの頃よりはましかもしれない」
自分達の知らない場所で彼の命が消えてしまうかもしれない、と言う恐怖。
もちろん、それが戦場であればいい。
問題だったは、彼が抱えていた事情によってもたらされる、不本意な死だ。
それはすなわち、彼が己の願いを叶えられずに死んだということだろう。自分にとっても、それは不本意だと言っていい。
しかし、今回のことが成功すれば彼は、それらから解放される。
そして、あの子もだ。
「そう考えると、君を連れ帰ってくれた彼に感謝のしようもないね」
しかも、とっさにコールドスリープ装置に放り込んでくれた。そのおかげで、自分達が対策方法を見いだすまでの時間を確保もできたのだ。
「彼の体調も落ち着いている。もう少し時間をかければ、以前のように何の憂いもなくなるだろうが……」
問題は、やはり時間だ。
彼の性格を考えれば、世界に何かあれば自分から動こうとするだろう。
それが最小限の被害で混乱を収めるためには最善の方法かもしれない。だが、彼の命という点では最悪の方法だと言える。
どちらを優先すべきなのか。
自分はまだ、その答えを出すことができない。
「とりあえず、レイをそばにつけてあるから心配はいらないと思うが」
後は、自分がどれだけ時間を引き延ばすことができるか、だ。
「あちらの姫もがんばってくれればいいが」
だが、状況は決して楽観視できない。
「本当に、あの戦いで有能な者達が多く失われたのがつらいよ」
彼らのうち、半数とは言わないが三分の一でも生き残っていてくれれば、いろいろな面で楽だったのではないか。
「今更言っても仕方がないことだ」
それよりも今いる人員を有効的に配置することを考えよう。そう付け加えたときである。
『旦那様、お客様がいらしております』
不意に執事がこう呼びかけてきた。
「予定があったかな?」
『いえ……ですが、紹介状をお持ちでしたので』
彼がそう言うと言うことは、無視できない相手からのものだと言うことか。
「どなたかな?」
まずは確認をしよう。そう考えて問いかける。それに返ってきたのは、予想もしていない人物の名前だった。